この夜の意味〜声にできない恋を隠したら、完全無欠な御曹司の本気スイッチ入りました〜(旧:RISKY〜不敵な御曹司との恋は避けるべき〜)
私だけが知る社長
結局なぜ会見を開いたのか。最後まで決定的な言葉を聞くことはできなかった。

元々休みだった私とは違い、肩透かしを食らった記者たちは新しいネタを収穫しようと、急ぎ早に会見場を後にしていく。

あれだけ窮屈だったエレベーターにもゆとりがあり、緊張の糸がふっと解ける。だが、もっと深く追及できたのではないか、という後悔と深まる謎に自然と身体は重い。

人の声が行き交っていたエントランスも、もうすっかり静まり返っている。先ほど逃げるように忍び込んだ角をゆっくり曲がろうとすると、背後から聞き覚えのある声が私の名前を呼ぶ。

「望月さん」

気を抜いていた私は不覚を狙われ、その場で固まってしまい言葉も何も出てこない。

追い打ちをかけるように
「さっきは、どうも」
と畳みかけられ、私はその場から逃れるタイミングを見事に失ってしまった。

あのときと同じだ。言葉を発するタイミングを与えないくらい、この人は自分のペースに相手を飲み込んでしまう。

私はこのままでは彼と対等に張り合うことさえできないと気を引き締め、普段より一段と低い声で虚勢を張る。

「どうも」

「びっくりしましたよ。いきなりあんな質問してくるんだから。お手柔らかにって、お願いしたのにね」

「それが私の仕事ですから」

「良いね。そうやって仕事に熱くなれる人間には、好感が持てる」

そんな私に対しても至って落ち着いた、いつも通りの宗高。怒っているわけでもなさそうだし、じゃあなぜ私はいま、声をかけられているのだろうか?

なんとか答えを探し出そうと頭をフル回転させるが、全く見当がつかない。

「なんで声をかけられたんだろう?って顔、していますね」

もう完全に気持ちを読まれているが、せめて弱気にだけはなってはいけないと断固として強い姿勢を崩さない。

「ええ、私に何か?」

「君、分かってましたよね。僕が会見を開いたのにはワケがあるってこと。僕にまだ聞きたいこと、残ってるんじゃありません?」

まさか彼の方から手の内を見せてくるとは思いもしなかった。

「教えてくれるんですか?そのワケとやらを」

「教えても良いんですが、こちらも一つ頼みたいことがあるんです。どうします?この話に乗ります?」

伺いを立てるような口ぶりだが、彼はさっきから私に一切歩み寄ろうとしない。エレベーターの前に立ちはだかりながら距離を取って、私の目の前に餌を差し出して揺さぶってくる。

こちらへと向かうエレベーターは段々と私たちのいる階に近づいてくる。答える前に考えたいこと、聞きたいことは山ほどあるがもう私にはそんな猶予なんて少しも残されていない。

「本当に教えてくれるんですね?」

「やっぱり、君ならそう答えてくれると思っていましたよ」

私が答えを出したタイミングで、ちょうどエレベーターが開く。閉まらないドアに乗れという無言の圧を感じ、私は再びその中に飛び込った。

上から下まで行き来するこのエレベーターに乗るのは、これで3回目だ。一人で乗っていたときよりも人の山に押し潰されながら乗っていたときよりも、断然今が一番長く感じる。

何十人も乗せていたこのエレベーターに、今は二人しかいないが、お互い対角にある隅に立っているせいで、中央には不自然な空間ができている。それにエレベーターに乗ってから、彼はずっと黙りっぱなしだ。

彼は今どんな表情をしているのだろう?とか、私に頼みたいことは何なのだろう?とか、今になって考える余裕が生まれても、後頭部しか見えない私には分かるはずもない。

じっと後ろ姿を見つめていると、急に彼の顔がこちらを向くから、目線のやり場を探すように何の変哲もない掲示物を意味もなく見つめる。

まだこちらを見ているのか、恐る恐る振り返ると、そこにいたはずの彼はもういなかった。それまで彼の身体が死角になって分からなかったが、ようやくここがこのビルの最上階だと知る。

姿を見失わないように地上に降り立ち、彼が向かった方向を見ると、そこには見通せるほど長い廊下が続いていた。

突き当たりには「社長室」のプレートが掲げられた大きなドアが見える。
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