この夜の意味〜声にできない恋を隠したら、完全無欠な御曹司の本気スイッチ入りました〜(旧:RISKY〜不敵な御曹司との恋は避けるべき〜)
彼はドアの前で立ち止まり、私が来るのを待っているようだ。その態度に従うように小走りで近づくと、中には100平米ほどの広い空間が広がっていた。

ガラス窓に囲まれた室内からは、この街一帯の景色が180度見渡せる。高級感のある大きなソファに合わせたロングテーブル。奥には牛革でつくられたオフィスチェアに、黒大理石のデスクがどっしりと構える。

いかにも東条グループの社長室、という仰々しい雰囲気に私の背筋は正される。

彼はというと、寒さをしのぐために羽織られた分厚い黒のジャケットから腕を出し、丁寧に二つに折りたたんでチェアの背にかけた。そして、グレーのタートルネックニット一枚の身軽な装いで、何も語らずただ淡々とコーヒーを淹れている。本音を言えば、今すぐにでも彼に迫って問い(ただ)したいくらいだが、まだ早いと思い留まり、入り口近くに立ったまま室内を見渡す。

すると壁に飾られた額縁の中にある、一枚の写真が目に留まる。前社長・太郎のものだ。生まれながらの太く凛々しい毛並みには血筋を感じるが、メガネをかけたその目に光はなく唇は一文字に閉じられている。恐らくこの部屋は太郎が人生で最も長く滞在していた場所になるだろう。

きっとこの部屋には、他人に知られたくないものだって万と隠されているに違いない。本来なら誰も足を踏み入れさせたくはないはずの部屋に、得体の知れないただの記者が招かれているんだ。

そこまでして彼は何を望んでいるのか、益々知りたくてたまらなくなる。どんな究極の選択を突きつけられようとも、これは立ち向かっていくしかない。

彼もリラックスした状態がつくられたことに満足したのか、ようやく私と話の続きをしようという気になったようだ。
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