家族に裏切られ全てを奪われた私は、辺境地に住む強くて心優しい彼に出逢い、沢山の愛と優しさに触れながら失ったモノを取り戻す
「……だれ、なの……?」
「クソ! 薬で眠らせてるからその間に殺れって言ってたくせに、これじゃあ話と違うじゃねぇか! まあいい、悪く思うなよ? 恨むなら自分の運の悪さを恨みな、姫さんよ」
「……い、いや……」

 黒づくめの男は一瞬焦りを見せたものの、すぐに態度を変えると刃先をエリスに向けながら一歩ずつ近づいて行く。

 腕の痛みはあるものの、それよりも今この場をどう切り抜ければいいのか、傷口から血が流れ出ている右腕を押さえながらエリスは必死に考える。

(……私、殺されるの? 嫌よ……そんなの……っ)

 二人の距離が縮まり男が剣を振り上げた、その時、側の棚に飾ってあった花瓶を手に取ると、エリスは男目掛けて勢い良く投げ付けた。

「うわっ!?」

 すると運良く花瓶が男の腕に当たり、その弾みで持っていた剣が床に落ちる。

「このアマ! 何しやがる!」

 男が痛がりながら剣を拾いあげようとする隙をついて、エリスは部屋から逃げ出した。

「はぁ……、はぁ……っ」

 暫く男が追ってくる気配を感じていたものの、相手はこの辺りの地理をよく知らないのか、エリスを見失ってしまう。

 そんなエリスは見つからないよう、上手く身を隠しながら森の中へと入り込んで行く。

 気付けば陽は昇り、空は雲ひとつ無い程に澄んでいた。

 エリスが逃げ込んだ森はセネルと友好な関係にあるサラビア国へと続く道でもあり、そこから船でどこか遠くへ行こうと考えたけれど、

(……そういえば私、お金なんて持ってない……しかも、こんな格好じゃ、人前にも出られないじゃない……)

 森の中腹まで差し掛かり、男が追ってくる気配も無い事からようやく少し心の余裕を保てるようになったエリスは、改めて自分が置かれている状況を知ると絶望的な気持ちになった。
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