側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません



 王都へ向かう馬車の車輪が、乾いた石畳を軋ませながら進んでいった。

 窓の外には、ミモザの花が咲き乱れている。けれど、その色彩さえ、今のイリアには色褪せて見えた。

 リリアンと一緒に、ミモザの花飾りを編み、お互いの髪に飾り合った昼下がり。突然降り出した小雨に濡れながら、傘を分け合った帰り道。どんな王子様が迎えに来てくださるかしらと、空にかかる虹をふたりで眺めた夕刻。

 どの記憶にも、明るい笑い声と優しい笑顔があった。

 あれもすべて、嘘だったのだろうか。

 街を抜け、のどかな農園の景色が広がると、ようやく、イリアは息をついた。しかし、気が晴れることはない。

 見送りの者は、誰ひとり声をかけてこなかった。侯爵家の子息に裏切られ、取り急ぐように側妃として嫁ぐ娘。使用人ですら、祝福された結婚ではないと哀れみの目を向けていた。これほど、屈辱的な結婚があるだろうか。

 それにしても、とイリアは頭を巡らせる。

 陛下はどんな方だろう。あまり表に出てくることのない方だとは聞く。

 即位当初、薄情、病弱、怠惰……さまざまなうわさのあった方ではあるが、公爵令嬢と結婚し、大陸中が祝福に包まれたのは、遠い記憶ではない。

 まさか、アルフレッドとともに陛下の結婚を祝福した自身が、王の寵愛を受けることになるとは誰が想像できただろう。

 馬車が大きく揺れ、ふたたび、石畳の道を走り始めたのに気づいて、イリアは窓から顔をのぞかせ、前方を眺めた。

 遠くに、白い城壁が見える。

 あれが、エストレア王城。我が夫となるフェイラン・アーデン陛下の住まう城。

 雲を貫くようにそびえる塔の先端が、陽光を受けて淡く輝いていた。そのまぶしい光の裏には何があるだろうか。イリアは拍動する胸を押さえた。

「……せめて、誇りだけは、失わないように」

 誰にも届かない声で、小さくつぶやいた。その言葉だけが、傷ついた彼女を支える、かすかな祈りだった。
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