リシェル・ベッカーが消えた日〜破滅と後悔はすぐそこに〜
そして一週間かけて母国であるアルカディアに戻ってきたリシェルは、ベッカー家に寄らずそのまま教会に預けられることになった。
フランクが帰宅すると、エミリが真っ先に駆け寄って従姉のことを聞いてくる。
「お父様、お姉様とは会えないの? 本当に、本当にお姉様だったの?」
「……ああ」
ギルバート家の後継ぎを身籠っている以上、精神的な負担をかけさせたくない。ベンジャミンと相談して、エミリには事故の詳細を伏せ、最期の対面っも希望がない限り避けることを決めた。
打ち合わせの通りに告げると、エミリは顔をそらした。
「そうですか……最期にお姉様に会えなくて残念ですわ」
がっかりするかと思いきや、エミリは小さく口元を緩めた。幼い頃は本当の姉のようにリシェルを慕っていたのをフランクは知っているが、目の前のしてやったりの表情を見て思う。
(あの女の血が引き継がれているとは、皮肉なものだな)
娘も令息も公爵家も、死んだ姪さえも、フランクにとってはただの駒にすぎない。
今の彼の頭には、三日後に行われる葬儀でどう人脈を広げていこうかと思案することでいっぱいだった。