リシェル・ベッカーが消えた日〜破滅と後悔はすぐそこに〜
◇
『――文官がリシェルの事故を調べている?』
ベンジャミンが領地の経営に携わり始めた頃。やっとエミリと入籍を済ませて穏やかな時間を過ごしていると、思い出したようにエミリが言った。
文官ごときが探偵の真似事などと鼻で嘲笑ったが、エミリは真剣な表情を浮かべて続ける。
『橋の復興が間に合っていない事実を、事故現場で残された資料を見て知ったそうです。もしかしたら、姉は今後の対策をあの日渡そうとしたのかもしれませんわ』
『対策? なんて気の利かない奴だ! その分、資金を持ってきてくれたら解決するのに!』
復興の目途が立っていない理由としては、立地と人手不足だ。
壊れた橋は山側に位置しており、濁流だけでなく一部土砂崩れが起きて家屋とともに押し流されてしまった。幸い全員無事で、今は別の場所で家を借りたり、近所の付き合いで住まわせていたりと様々だ。
公爵家では、領民の安全を第一に物資を送りつつ、生活の基盤となる橋の修繕に取り掛かっていた。しかし、人数をつぎ込んでも足場の悪さと、二次災害が起きないよう慎重に作業を進める必要があるため、どうしても時間がかかる。
ベンジャミンはそこに目をつけた。時間がかかるものにいくら金をつぎ込んだところで、スピード解決は不可能であると。
それによって徴税の額を引き上げるのと同時に決行されたのが、修繕費の削減だった。人件費を削り、少人数制にしてコストを抑えるのが目的だ。
最初の内は問題なかった。だから大丈夫だと思っていたのだ。リシェルがいくら対策を持ってきたところで、自分の策に勝てるわけがない!
緩んだ口もとを抑えながら、ベンジャミンはエミリの背中に手を回す。
『教えてくれてありがとう、エミリ。リシェルがいなくても立派な領地にしてみせるさ。文官の動きも気にかけておこう』
噂によれば、テオと呼ばれた文官は王太子ルーカスと学園の頃から仲が良いらしい。グランド伯爵家は王家との何らかの取引があるのだろう。そこを突けば何か弱みが出てくるかもしれない。
(こうなったら、リシェルの味方をする奴は全員返り討ちにしてやる!)
我ながら完璧な計画だとにんまり顔になった。
『――文官がリシェルの事故を調べている?』
ベンジャミンが領地の経営に携わり始めた頃。やっとエミリと入籍を済ませて穏やかな時間を過ごしていると、思い出したようにエミリが言った。
文官ごときが探偵の真似事などと鼻で嘲笑ったが、エミリは真剣な表情を浮かべて続ける。
『橋の復興が間に合っていない事実を、事故現場で残された資料を見て知ったそうです。もしかしたら、姉は今後の対策をあの日渡そうとしたのかもしれませんわ』
『対策? なんて気の利かない奴だ! その分、資金を持ってきてくれたら解決するのに!』
復興の目途が立っていない理由としては、立地と人手不足だ。
壊れた橋は山側に位置しており、濁流だけでなく一部土砂崩れが起きて家屋とともに押し流されてしまった。幸い全員無事で、今は別の場所で家を借りたり、近所の付き合いで住まわせていたりと様々だ。
公爵家では、領民の安全を第一に物資を送りつつ、生活の基盤となる橋の修繕に取り掛かっていた。しかし、人数をつぎ込んでも足場の悪さと、二次災害が起きないよう慎重に作業を進める必要があるため、どうしても時間がかかる。
ベンジャミンはそこに目をつけた。時間がかかるものにいくら金をつぎ込んだところで、スピード解決は不可能であると。
それによって徴税の額を引き上げるのと同時に決行されたのが、修繕費の削減だった。人件費を削り、少人数制にしてコストを抑えるのが目的だ。
最初の内は問題なかった。だから大丈夫だと思っていたのだ。リシェルがいくら対策を持ってきたところで、自分の策に勝てるわけがない!
緩んだ口もとを抑えながら、ベンジャミンはエミリの背中に手を回す。
『教えてくれてありがとう、エミリ。リシェルがいなくても立派な領地にしてみせるさ。文官の動きも気にかけておこう』
噂によれば、テオと呼ばれた文官は王太子ルーカスと学園の頃から仲が良いらしい。グランド伯爵家は王家との何らかの取引があるのだろう。そこを突けば何か弱みが出てくるかもしれない。
(こうなったら、リシェルの味方をする奴は全員返り討ちにしてやる!)
我ながら完璧な計画だとにんまり顔になった。