リシェル・ベッカーが消えた日〜破滅と後悔はすぐそこに〜

 すると、ルーカス達がある二人組の前で足を停め、先程よりも砕けた表情で話しているのが見えた。
 そこにはグランヴィル王国のテオバルド第二王子がいた。滅多に表舞台には出てこない彼だが、夜空のような黒髪をかきあげ、鋭く赤い瞳は何よりも目を惹かれる。
 その隣で彼の腕を取っている女性を目にした途端、ベンジャミンはハッとして身を乗り出した。

「あれって……まさか!」
「ベンジャミン様、どこへ……っきゃあ!」

 ベンジャミンは泣きじゃくるエミリを突き飛ばすと、まっすぐ駆け出した。

「ちょっとどいて! どいてくれ!」

 突き飛ばすようにして人混みをかき分けていくと、どんどんと彼女の顔が見えるようになった。
 亜麻色のショートカットにガーネットの宝石が散りばめられた髪飾りをつけ、緑の落ち着いたドレスは気品が溢れている。翡翠の瞳はひと際煌めいており、初めて元婚約者と対面した時のことを思い出した。

 彼女は死んだはずの、リシェル・ベッカーそのものだ。

(リシェルだ、間違いない! やっぱり生きていたんだ!)

 どうして彼女が隣国の王弟と参加しているのかは知らないが、そんなことはどうでもいい。ずっと探していたリシェル・ベッカーが生存している。それだけでベンジャミンは高揚した。

「リシェル!」

 大声を上げたと同時に、ルーカス達がベンジャミンの方に顔を向ける。リシェルらしき女性は不思議そうな表情でベンジャミンを見ていた。

「ああ、リシェル……僕の愛しい人! ようやく見つけたよ!」

 再会できた衝撃に震えながら、一歩一歩近付くベンジャミン。しかし、彼女を隠すようにテオバルドが前に立った。

「な……何だお前! どけよ! 僕はギルバート公爵家の次期当主だぞ!」
「ギルバート……というと、亡くなられたベッカー伯爵家の長女が嫁ぐはずだった家か。なるほど、勘違いしても無理はないが、彼女はあなたの想い人ではない。下がってくれないか」
「はぁ!? どうみたって彼女はリシェルじゃないか! 僕に会いたくて戻ってきたんだよね、リシェル、答えてくれよ!」

 ベンジャミンが前のめりになって女性に問いかけるも、彼女は憐れむ表情を浮かべるだけ。まるでベンジャミンのことをわかっていないようにも見て取れた。
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