リシェル・ベッカーが消えた日〜破滅と後悔はすぐそこに〜
『それは……何でも食らう魔草の種ではありませんか』
『ああ、しかもこいつは気まぐれでな、時間をかけて成長し、対象に食いつく傾向がある。鉄は特に好物だ』
国内では滅多に見られない魔草だが、当時からセルペンテ商会に出入りしていたフランクは、伝手を辿って入手していた。ある程度、気の知れた相手だったので、復讐のためだと冗談交じりに告げると、相手はにやりと口元を緩め「お試しに」と特別に用意してくれたのだ。
この魔草は種の状態で仕込み、日光と空気を少しずつ取り込んでいくことによって成長し、自分の住処を養分にて腐らせてしまう性質を持っている。住処を失うと、次の場所に風任せで飛ばされ、最終的には薔薇のような赤い花を咲かせた場所で永住するという。
フランクはそれを、馬車の車輪の繋ぎ目に忍ばせた。種が動き出すのは早くても一年はかかるため、フランクはアリバイを作ることで関与を否定することができる。計画は完璧だった。
『――お嬢様! ここはひとりできちゃ駄目ですって!』
『ご、ごめんなさい! 子犬がこっちに来ちゃって……』
すると、小屋の前で見張りをさせていた使用人が少女に注意している声が聞こえてきた。どうやら庭で遊んでいた姪が、こちらに来てしまったらしい。
フランクは息を潜めた。以前から弟に似ている姪は、齢八で隣国と祖国を繋いでしまった才媛だ。
『あら、新しい使用人ですか?』
『――っ!?』
すぐ近くまで聞こえた声に、思わず顔を上げてしまった。目の前にはもうすぐ十歳になる姪の姿がある。亜麻色の髪に翡翠の瞳は、両親の特徴を程よく持ち合わせていた。
目が合った姪はきょとんとした顔をするも、すぐにカーテシーをする。
『はじめまして、リシェルと申します。あなたのお名前は?』
(……ああ、よかった!)
幸いなことに、フランクが勘当されたのは姪が生まれる前だ。だから目の前にいる彼女は、自分が伯父であることを理解していない。姿を変える魔道具も充分に機能している。これなら大丈夫だ!
フランクはほくそ笑むと、姪の前に跪いて微笑んだ。
『はじめまして、お嬢様。サムと申します。馬車の点検に参りました』