リシェル・ベッカーが消えた日〜破滅と後悔はすぐそこに〜
◇
「――それから一年をかけて魔草は成長すると、住処にしていた車輪の一部をさびさせた。そして崖から落下した際、馬車から飛ばされてグランヴィルの地に落ちたのでしょう。当時、あの魔草は情報が一切なく、現場検証でも魔草の存在に気付けなかったことで事故と判断された。しかし、あなたはまた同じことをリシェル・ベッカーに仕掛けたのですね」
「ふざけるな!」
テオの最後の言葉に、フランクは立ち上がった。
「ハンクだけでなく、リシェルの事故も俺が仕組んだことだというのか!
「実際、セルペンテ商会でも短期間で成長させる仕様に改良されていた魔草を、あなたが買い取ったことはわかっています。馬車の車輪に仕込んでいたのも、婚約破棄を言い渡される数日前にあなたに取り付けていた放映機の録画によって確認済みです」
「で、でたらめだ、俺がやった証拠なんて!」
「事故現場で倒れていたリシェル嬢の辺りには、花束としてまとめるには派手すぎる赤い花弁が混ざっていました。あれは成長した魔草のもので、セルペンテ商会の改良したものと一致しています。きっと、彼女は原因を見つけ、最後の力を振り絞って我々に託したのでしょう。もう、言い逃れはできませんよ」
顔面蒼白のフランクを前に、テオは更に続けた。
「偽名を名乗ったのが不味かったですね。リシェル・ベッカーは『サム』の名前を頼りに調べていた。使用人が着るには高額なコートを見て、馬車の点検にやってきた業者ではないと見抜いたそうです」
「なぜだ……なぜあの娘がすべてを知っている? まさか、事故だけでなくベッカー家とギルバート家の没落も見通していたとでも言うのか! ただでさえ魔法が使えない、あの落ちこぼれが!?」
無力な小娘一人で調べられるものではない。ただでさえ、リシェルは魔法を持たずに生まれてきた稀有な存在だ。この国では、魔法を持たない者は無能の烙印を押していた。
「リシェル・ベッカーが無能だと?」
しかし、テオはそれを一蹴した。
「勘違いも甚だしい! 彼女は魔法を持たないから有能なんだ。魔法にばかり頼ってきた貴様にはわからないだろうが、そんな彼女だからこそ、お前の得意な言葉で呪いをした」
「ま、呪い……?」
「何度も耳にしたのではないか?『私はすべて知っている』、と」
それを聞いて、思わずハッとした。
『私はすべてを知っている』――幾度となく彼女が口にし、棺の中にも残した言葉は、思い出すたびに脳内で過去の記憶が勝手に回想されるのだ。
フランクはそれを偶然だと思いこんでいたが、それもまた、何かしらの魔法だったとしたら?