奪われる人生なら、 すべて捨ててしまいましょう ~忘れ去られた第七王女による国を巻き込んだ逆転劇~
 こんな時間もまた、以前は考えられないものだった。

 姿変えの魔道具を使い、エリュシアは商人見習いとしてトーマスに同行していた。今日行くのは、宝石を嵌め込んだ魔道具を注文するという貴族の家だ。

(……心配だわ)

 一応王女ではあるが、エリュシアの教養は、母から受けた基本の教育とトーマスによって突貫工事で与えられたものだけ。
 下手なことをすれば、クラニウス王国で育ったと気づかれてしまうかもしれない。緊張で背中を冷たいものが流れ落ちる。
 横を見れば、トーマスは落ち着き払っていた。以前から頼りがいのある人だとは思っていたけれど、商人として様々な家に出入りをしているからだろうか。
 これから貴族の家に行く――粗相があれば、その場で首を跳ねられる可能性も否定できない――なんてみじんも感じさせない落ち着きっぷりだ。
 やがて馬車が到着したのは、立派な庭園を持つ貴族の屋敷だった。庭園は左右対称に整えられ、中央には噴水がもうけられている。
 水が煌めいているのを馬車の窓から眺めていたら、あっという間に到着していた。

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