奪われる人生なら、 すべて捨ててしまいましょう ~忘れ去られた第七王女による国を巻き込んだ逆転劇~
 トーマスに続き、ドレスの裾を上手にさばいてゆっくりと歩く。王族としての身のこなしは、ディーデリックに頼んで、こっそり教師を派遣してもらってもう特訓した。
 エリュシアが学んだのは、基礎の教養だけだが、久しぶりに会う彼らに、みっともないところは見せたくなかったのだ。
 歩いていく間にも、謁見の間に集まっている家臣達が、ひそひそと囁き合う声が聞こえてくる。
 王宮で暮らしていた頃、離宮からほとんど出ることのなかったエリュシアが、堂々としているのに驚いているのかもしれない。

「……面を上げよ」

 クラニウス国王の前まで進んで、頭を下げる。エリュシアも、トーマスも。

「許す。面を上げよ」

 二度、許可を得てから、二人ともようやく顔を上げた。

(……何も感じないわ)

 意外なことに、父親の顔を見ても何も感じなかった。
 以前の人生ではどうだっただろうか。父から、呼び出しを受けて嬉しかったような記憶がある。
 何年も放置されていたけれど、エリュシアのことを忘れていなかった――と。その喜びは、縁談を押し付けられたことですぐに消え失せたけれど。

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