奪われる人生なら、 すべて捨ててしまいましょう ~忘れ去られた第七王女による国を巻き込んだ逆転劇~
 以前の人生では、ディーデリックと踊る機会はなかった。それを言えば、夫と踊る機会もなかったのだが。

「でも、失敗してしまったらどうしましょう?」
「大丈夫だ。俺がなんとかする」
「一生懸命ついていきますから、よろしくお願いしますね」

 向かい合って、ディーデリックに身を任せる。
 エリュシアの手を優しく取る彼の手。腰にそっと添えられた手。
 彼のリードは的確で、優しくて、人前で踊るのは初めてのはずなのに、不思議なほどに緊張せず、ぴたりと息が合う。

「楽しいです! すごく、楽しい。何もかも忘れてしまいそう」

 この国で探り出さねばならないことも、復讐も。皇帝を退けねばならないことも。
 すべて忘れてしまいそうだ。
 愛している人と手を取って音楽に身を任せる。それだけで、こんなに満たされるなんて。

「今ぐらいは、忘れてもいいだろう――今だけは」

 背中に回された腕に、力が込められる。エリュシアはその力の強さに、うっとりと身を任せた。
 音楽に合わせて、ディーデリックについていく。二人の息のあったダンスに、周囲の人達は感嘆の声を上げていた。
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