奪われる人生なら、 すべて捨ててしまいましょう ~忘れ去られた第七王女による国を巻き込んだ逆転劇~
「……このお茶、ディーデリック様と一緒に飲もうと思っていたのに」

 母の手元に届く品々は、王宮の侍女達と同レベルのものになっていたから、この茶葉も最高品質ではない。
 エリュシアにとっては、母との思い出の味でもある。母とは薬草茶をよく飲んでいたが、紅茶を楽しむこともあった。これは、その紅茶の入っていた缶だ。
 高品質のものは帝国でも入手しやすいが、庶民の味は逆に手に入らない。わざわざ帝国まで運ぶ必要がないからである。
 だから、この国で楽しみ、できるだけたくさん買って帰ろうと思っていたのに……母との味を穢された気がした。
 デスクに向かい、引き出しから便箋を取り出してすらすらと三通の手紙を書き上げる。
 手紙のうち二通のあて先は、ヴァルスとザフィーラだ。
『ディーデリックは反対しているが、自分はふたりとの縁を強化したいと思っている。ついては、話し合いがしたいので離宮まで来てほしい』とそこには書いた。
もう一通は、ディーデリックへ。一見、仲を深めつつある男女のやり取りに見えるが、事前に決めておいた符丁で記してある。エリュシアが動くことを彼には告げた。

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