奪われる人生なら、 すべて捨ててしまいましょう ~忘れ去られた第七王女による国を巻き込んだ逆転劇~
「何も話さないという意気込みは買いたいと思っているが――俺は、どんなことでもやるぞ。拷問も辞さん」

 まだ、男の口を塞いでいる猿ぐつわは外していない。答えようようもないのに、なおも続ける。

「毒を売ったのはお前か、と聞いているんだが――そうかそうか、返事をするつもりはないか」

 短剣を握った右手を振り上げる。しゅっと音を立ててそれが振り抜かれた。とたん、宙に飛び散る血。

「……あぁう! あぁう!」

 目を見開いたまま、男はくぐもった声を上げた。

「安心しろ。皮一枚だ。困ったな、まだ話す気にはならないか」

 派手に血を飛び散らせるように彼の頬を切ったが、薄皮一枚だ。きちんと手当をすれば、傷跡ひとつ残らない。
 だが、男は目を見開き、がたがたと震え、ぼろぼろと涙まで流し始めている。

「……話す気になったか?」

 がくがくと首を縦に動かし、男はディーデリックの方にすがるような目を向けた。

(……老人をいたぶるのも気分がよくないしな)

 毒物を扱っている商人ではあるが、この男本人は荒事とは無縁なのだろう。おそらく、手を汚すような仕事は、部下達に任せてきたに違いない。

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