奪われる人生なら、 すべて捨ててしまいましょう ~忘れ去られた第七王女による国を巻き込んだ逆転劇~
 やはり、庶民の服装をまとっていても、彼の育ちのよさは隠しようがない。
 エリュシアは、自分の姿を見下ろした。白いシャツに、胸当てのついたズボン。
 職人としては珍しくない服装だったが、彼の前に立ったら、急にみっともないように思えてきた。

「……あ、私ってば、お茶も用意しないで」
「このままでいい。話が先だ」

 皇太子が来たというのに、茶の用意すらしていなかった。慌てて厨房に走ろうとしたら、彼は手でそれを制する。
 再び向き合う位置に腰を下ろしたけれど、彼の顔が見られなかった。
 どうして、こんなにもドキドキしてしまうのだろう。
 愛していた――愛している。
 強くそれを思い知らされる。再び顔を合わせた今だからこそ、より強く。

「……記憶があるのだろう?」
「はい」

 単刀直入に彼が切り出すから、エリュシアも素直に返した。
 そうか。ディーデリックも、記憶を持ったまま戻っていたのか。
 胸の奥から、こみ上げてくるものがある。
 想いを視線で告げるしかなかったあの頃。彼も、エリュシアと同じ気持ちだったと信じたい。

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