奪われる人生なら、 すべて捨ててしまいましょう ~忘れ去られた第七王女による国を巻き込んだ逆転劇~
「私の名前がどうかしましたか? どんくさいったらありゃしない。本当に、陛下の血を引いているのかしらね」

 本来ならば適温にして持ってくるものなのに、与えられた洗面用の水は冷たい。
 だが、そういえばこの国ではいつもこうだったな、と思いながらエリュシアは顔を洗い始める。水を拭うと、鏡の前に移動させられた。

「い、痛いってば!」

 ぐいぐいと髪を引っ張られ、首の後ろで一本にまとめられる。髪飾りも何もないシンプルな形だ。これなら、自分でも結えるのに。

「髪をほっとくわけにもいかないでしょうが。ほら、それがすんだらさっさと食べる! 私の仕事を増やさないでくださいね!」

 ぶつぶつ言いながらも、マルタはエリュシアの髪を整えると、使い終わった洗面道具を手に部屋を出て行った。

(……あの頃は不思議に思わなかったけれど、よく考えたらひどい扱いよね)

 エリュシアの母、エルフリーダは隣国アルタイア帝国の出身だった。
 もともと帝国で魔道具師として働いていた母は、父と取引をしていた商人に連れられて、この国に魔道具の売り込みに来たそうだ。そこを父に見初められて、後宮入りしたらしい。
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