領地開拓のために捨てられ令息を拾ったら、わんこ系イケメンになって懐かれました!
 アミュエルが見た先には、ぼさぼさの黒髪の男性がいた。国王主催の舞踏会だというのに衣装はよれよれで、よく入場できたものだ。
「あんな男はやめるんだぞ。愛娘が苦労するのは見たくない」
 顔をしかめるジェイソンに、アミュエルは苦笑をもらした。
「向こうだって私みたいな田舎娘は相手にしたくないと思うよ」

 答える彼女の耳を、女性陣の嬌声がつんざいた。
「氷の将軍、ハリアード・サイモン・レンデル侯爵子息よ!」
「二十八歳の若さで准将でいらして」
「どんな美女も口説き落とせない美丈夫」
「どのような淑女が射止めるのかしら」

 彼女らの視線の先には、銀の長髪をなびかせた美青年が立っていた。青い瞳も麗しく、白い衣装に銀の刺繍が背の高い彼を引き立てている。

「あの将軍はどうだ? 十歳差にはなるが」
「無理無理。そもそも将軍だよ? うちの領地に婿に来るわけないじゃん!」

「あれくらいなら俺も妥協できると思ったが……大気から水を出せる、稀有な能力者だろう?」
「高嶺の花に対して妥協とか、親ばかすぎ」
 アミュエルはあきれ果てた。

 魔力は存在に干渉するもので、無から有を産みだすことはない。たとえばコップの水を宙に浮かせる、焚火の火を操作する、というものだ。
 だが、ハリアードは違う。噂によると大気中の水分を水と成すらしいが、それができるのは彼くらいだ。

「ハリアード、よく来たな」
 この国の王子、ウィルフレッド・コリン・ナーソンが現れてハリアードに話しかけた。
 ジェイソンがなにも言わないので、アミュエルは軽く眉を上げた。
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