恋を知らない侯爵令嬢は裏切りの婚約者と婚約解消し、辺境地セカンドライフで溺愛される
「リリー、これはいったい……」
「塔の記憶よ」

 霧が晴れると、幻影はフェリクスを撫でながら『悲しい人』と呟いた。

『強い思いに応えると、人は喜ぶ。幸せになると眠った』 
「……貴女は、生贄の子たちの心を守ろうとしてくれたの?」

 静かに頷いた幻影は、腕の中のフェリクスを撫でた。

『だけど……この人、悲しみが深すぎた……わたしも悲しくなる』
 
 ぽろぽろと双眸から涙が零れ落ちていく。それをフェリクスの指が拭おうとした。

『貴女は悲しくない人……お願い……この悲しみを癒して』

 フェリクスと抱き締め合う幻影と見つめ合った。

「……アルフレッド、クラレンスのお屋敷に帰ったら、いっぱいキスをしていいから」
「リリー?」
「だから……許してね」

 床を蹴り、幻影とフェリクスに向かって走った。
 目の前で壊れた鳥かごが消える。伸ばした両手で二人を包み込む。力の限り抱き締め、祈りの言葉を胸の内で紡いだ。

 あふれ出る黒い悲しみ。それを、塔の幻影は必死に抱えている。
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