妹ばかり見ている婚約者はもういりません
 私はドレスを一枚一枚手に取って眺めた。

 どれも驚くほど手触りが良い。そこまでドレスに詳しくない私にも、良質なドレスであることはすぐにわかった。

 こんなドレスをいくつも持っているラウロ様のお母様とは何者なのだろう。

 ミリアムさんがラウロ様をどこかの権力者の家の子供らしいと言っていたけれど、それはあながち間違っていないのかもしれない。

 そういえば宰相様が親代わりに後見をなさっていると言っていたけれど、まさか親代わりではなく本当に親子だったりするのかしら。


「ジュスティーナ嬢、どれか気に入ったものはあるか?」

「あ、はい! まだ迷っていて……」

 ぐるぐると考えていると、ラウロ様が私の手元を覗き込みながら尋ねてきた。慌てて思考を目の前のドレスに戻す。

「ジュスティーナ様、そちらの水色のドレスなんていかがですか? 若い女性らしくてよろしいのではないかと。ジュスティーナ様は肌が白くてほっそりしてらっしゃるから似合いそうですわ」

 横で見ていたエルダさんがそう提案してくれる。そのドレスは、確かにフリルがたっぷりついていて、色合いも明るくて、少女らしい素敵なドレスだった。

 しかし、私にはどうにも似合わない気がする。

 フェリーチェだったら似合うんだろうななんて、考えても仕方ない思いが浮かぶ。


「とても素敵ですが、もう少し落ち着いた色合いのほうが……」

「これも結構落ち着いた色合いだと思いますけどねぇ。ではこちらの青いドレスはいかがでしょう?」

「ええと、もう少し飾りの少ないデザインの方が」

 エルダさんはあれこれ提案してくれるけれど、どれも似合う気がしなくて断ってしまった。私は目についた一枚のドレスを手に取る。


「あ、これがいいかも! これを貸していただけますか?」

「これですか?」

「ジュスティーナ嬢、本当にそのドレスでいいのか?」

 私が選んだドレスを持ち上げると、二人は微妙な顔になった。

「せっかくのダンスパーティーなのですから、もう少し華やかなドレスのほうがいいのではないでしょうか?」

 エルダさんが頬に手をあて、難しい顔で言う。

 私が選んだのは、黒いレースで袖から首元まで覆われた、深緑色のロングドレスだった。

 これなら私が着てもおかしくないと思ったけれど、二人とも反応があまり芳しくない。


「変ですか……?」

「いいえ、そういうわけではないのですが、もっと……」

 エルダさんは口に手をあて何か考え込む。それからぱっと顔を上げ、ラウロ様に向かって明るい声で言った。
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