妹ばかり見ている婚約者はもういりません
「ラウロ様、いらっしゃいますか?」

 床の上にも積み上げてある本を踏まないように気をつけながら、部屋の奥まで足を進める。

 それにしても、研究室というより書庫のような部屋だと思った。

 床の上の本の表紙をちらりと見ると、植物の絵が描かれているものが多い。ここで本を読みながら研究しているのだろうか。

「あれ? いない……」

 書棚の裏に入り、部屋の奥まで来てみたが、そこにラウロ様の姿はなかった。そこにも本で埋め尽くされた書棚が並んでいるだけ。

 ラウロ様は今、お部屋を留守にしているのだろうか。


 とりあえず引き返そうと思い、再び本を踏まないように気をつけながら歩く。

 しかし、薄暗いため足元がよく見えず、何か固い金属のようなものを蹴飛ばしてしまった。

「わっ、ごめんなさい!!」

 誰もいないにも関わらず思わず声に出して謝りながら、蹴飛ばしてしまったものを拾い上げる。


「……短剣?」

 それは真っ黒な短剣だった。

 鞘と柄には繊細な彫刻が施され、柄の先の部分には宝石がついている。

 そして不思議なことに、短剣には黒い蔦のようなものがしっかりと巻き付いていた。

 なんだか禍々しい気配のする剣だ。剣の先の青い宝石も、締め付けるように蔦に絡まれて、輝きが曇っている気がする。見ているだけで不安が胸に広がった。

 私は剣に傷がついていないか確認すると、すぐさま元あった場所に戻した。


 あの短剣はなんなのだろう。どこかで見たことがある気がするのは気のせいだろうか。

 それに剣に絡まっていたあの蔦。ジグザグと歪んだ特徴的な葉を持つあの蔦は、ラウロ様の顔の痣の文様と似ている気がした。


 あの短剣が気になって仕方なくなる。

 禍々しい空気を放っているとはいえ、あんなに精巧に作られた剣が、箱にも入れられず放り出すように床に置いてあったのも不思議だ。


(このお部屋、一体なんなんだろう……)

 どうしても気になり、勝手にじろじろ見るのはよくないと思いつつも辺りにある本を見回した。

 表紙を見てみると、書棚には植物の図鑑や呪い関連の本、そしてなぜか『ラルミア』という町の本が異様に多かった。

 植物や呪い関連の本はわかる。以前、ラウロ様自身が痣を治すために呪いの研究をしていると言っていた。

 しかし、なぜこんなにラルミアの町に関係する本が多いのだろう。

 見た限りではほかの町の本はなく、王国の地理について調べているわけではなさそうだ。ラルミアの町限定で資料を集めているのだろう。


「あの町に何かあったかしら? 普通の田舎町だったと思うけど……」

 王国の北西にあるあの町は、これといって特筆すべき場所のない平凡で長閑な場所だったと思う。

 唯一話に聞くのは、今は亡き第三妃様の出身地だということくらいか。

(書棚にラルミアの町の本が多いのは、亡き第三妃様の出身地であることが何か関係しているのかしら……?)
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