妹ばかり見ている婚約者はもういりません
「ジュスティーナ嬢!」

 考え込んでいると突然後ろから声が聞こえ、肩がびくりと跳ねた。

 書棚から目を離して扉の方を見ると、そこにはラウロ様と、息を切らしたエルダさんが立っている。

「ラウロ様……」

「ジュスティーナ嬢。よかった、ここにいたんだな。君がリグラの枝を届けに来てくれたと聞いたのに、なかなか来ないから心配したよ」

「え?」

 不思議に思っていると、エルダさんが申し訳なさそうに手を合わせる。

「申し訳ありません、ジュスティーナ様。ここは研究室ではなく書庫なんです。うちのお屋敷で使用人たちはラウロ様の研究室を『青い扉の部屋』と呼んでいるので、ついそのままお伝えてしまいました。普段使用人は入らない、もう一つ青い扉の部屋があることを忘れていましたわ……」

「あ、そうだったのですね」

 確かに、私も研究室というより書庫のようだと思っていた。部屋を間違えていたことに全く気付いていなかったらしい。

「すみません、勝手に書庫に入ってしまって……」

「気にしなくていい。玄関ホールから来ると、この部屋の方が先に見つかるからな。青い扉の部屋と聞いてこちらだと思うのも無理はない」

「ジュスティーナ様、ご迷惑おかけしました」

 にこやかに言うラウロ様の横で、エルダさんが眉根を下げている。私は「大丈夫です」と慌てて両手を振った。


 エルダさんがお仕事に戻ってしまうと、ラウロ様はこちらを見て言った。

「ジュスティーナ嬢、リグラの枝はあるか?」

「あ、はい! こちらに」

 ラウロ様に尋ねられ、テーブルの上に置いていたリグラの枝を渡す。ラウロ様は枝を受け取ると、一本一本を慈しむみたいに眺めた後、お礼を言ってくれた。


「ありがとう、ジュスティーナ嬢。よかったら研究室の方も見て行かないか?」

「いいのですか?」

「ああ、研究室にも研究用の植物がたくさんあるんだ。ジュスティーナ嬢は興味があるかと思って」

 ラウロ様がそう言ってくれるので、私は迷わずうなずいた。ラウロ様が研究している植物なんて、ぜひ見せてもらいたい。

 ふと、先ほど見た短剣のことが頭をよぎった。それに、やけにたくさんあったラルミアの町の本のことも。

 しかし、勝手に見てしまった短剣や本のことを尋ねていいのか躊躇われる。


「ジュスティーナ嬢、どうかしたか?」

「あ、いえ! なんでもありません!」

 不思議そうな顔をしてそう聞かれ、無意識に首を横に振っていた。

 ラウロ様の額から頬にかけて刻まれた蔦の文様は、やはり先ほど見た短剣に巻き付いた蔦と似ているような気がした。
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