妹ばかり見ている婚約者はもういりません
「いえ、遠慮しておきますわ。そんなお気遣いいりませんので、フェリーチェとどうぞお幸せに」

「フェリーチェのことを気にしているのか? 大丈夫だ。フェリーチェは心優しい少女だから、行き場の無くなった姉を引き取るくらい許してくれるさ。お前だってあんな醜い痣のある男といるより、俺の妾になるほうがいいだろう?」

 ルドヴィク様が憐れみを含んだ声でそう言うので、ふつふつ怒りが湧いてきた。

 さっきからラウロ様のことを醜い痣のある男だと言っているけれど、彼の痣が消えたことを知らないのだろうか。

 大体、ラウロ様は痣があったときから影のある雰囲気がむしろ美しかったので、その言いようには納得がいかない。


「ルドヴィク様、私は婚約破棄したことを後悔なんてしていませんわ。もう放っておいてください」

「強がるなよ。お前の気持ちはわかってる。早くこちらへ戻ってこい」

 私の言葉なんてまるで聞かず、ルドヴィク様は私の手を引っ張る。振り払おうとしたが、力が強くて振り払えない。

 不幸にも廊下の奥まったところまで来ていたせいで、そばには私たち以外には人影が見えず、誰かに助けを求められそうもなかった。


「ルドヴィク様、いいかげんにしてくださ……」

「ちょっとルドヴィク様! 探したじゃないですか! 何でここにいるんですの! ホールの前で待ち合わせって言ったのに、先に中に入ってしまうなんてひどいですわ!」

 私とルドヴィク様が揉めていると、後ろからフェリーチェが駆けてきた。

 頬を膨らませてルドヴィク様に文句を言っていたフェリーチェは、私に気づくと眉間に皺を寄せる。


「どうしてジュスティーナお姉様と一緒に? 何をしてたんですの?」

「いや、フェリーチェ、これは……」

 問い詰められて、ルドヴィク様はしどろもどろになっている。フェリーチェがいない間に私に妾の話を承知させようとしたのだろうと考えたら呆れてしまった。

 フェリーチェの登場に動揺したのか、ルドヴィク様の手から力が抜けて、ようやく離してもらえた。


「ルドヴィク様、もうよろしいですか? フェリーチェも来たようですし、私は行かせてもらっても」

 再び捕まらないように後退りしながら言うと、ルドヴィク様は焦った顔になる。

「待て。まだ話は終わっていない! さっきの話の返事を聞いていないだろう」

「返事ならしたじゃないですか。お断りします」

「もっとよく考えろよ。後悔するぞ? ラウロ・ヴァレーリなんかに媚びを売るより、予定通りティローネの家に来たほうが……」

「ちょっとルドヴィク様。それ、どういうことですか?」

 ルドヴィク様が必死の顔で言い募っているのを、フェリーチェが口の端をひくつかせて遮る。
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