母の世界のTKG
 オリビアが不安な思いで聞くと、裕也は穏やかに微笑んで頷いた。

「思うよ。だって、君が姉を語るとき、幸せそうだからね」

「……そうだといいのですが。あの、もう一つ聞いてもいいですか?」

「もちろん。君は僕の姪だから、なんでも聞いてほしい」

「あの、TKGってなんですか?」

「TKG!? なんでいきなり……?」

「母の最期の言葉なんです。TKGを食べたかったと」

 裕也はぽかんとした後、笑い出した。

「はは、そうか。姉さんらしい。……君は、卵かけごはんを知らないのかい?」

「卵かけごはん……?」

「そろそろ夕飯時だし、用意しようか」

 裕也が立ち上がり、翔も続く。
 オリビアはまた翔の後ろについていった。
 食堂らしい部屋に入った。
 裕也の妻であり、翔の母だという女性が、笑顔でオリビアに席を勧めてくれる。
 そこには、見覚えはないものの、いい香りの食事が並べられていた。

「……これが、卵かけごはん……? 生、です……」

「普通じゃん?」

 オリビアはご飯の上にのった生卵に驚きを隠せなかった。
 元の世界では、卵とはよくよく火を通して食べるものだ。
 裕也は微笑んで、卵とライスをかき混ぜる。

「世界的に見ても、卵を生で食べる国は少ないからね。日本の卵は新鮮だから、生で食べてもお腹を壊したりしない」

 最後に黒い液体を垂らした。
 オリビアは散々悩んでから、同じように卵とライスを混ぜ、差し出された小瓶から黒い液体を垂らす。

「いただきます」

 隣に座る翔が、食事に向かって手を合わせた。
 ……オリビアの母もやっていた仕草だ。
 昔はオリビアも一緒にやっていたはずなのに、すっかり忘れていた。

「いただきます。……おいしい」

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