忘却の蝶は夜に恋う

「貴女は味覚音痴だと宰相から聞いた。今後、味付けは全てセバスチャンに任せればいい」

 ──今後。つまり次があるということ。思わぬ言葉に、イスカの喉の奥は震え、次に奏でる声を掠れさせた。

「……それじゃあ私は、ただ具材を切ることしかできないじゃないか」

「そうしてくれ。僕の胃のために」

 イスカはムッと口を歪ませ、立ち上がったノクスを下から睨め付けた。

「私は君のために腕を奮いたいのに」

「腕を奮った結果が、炭色の塊だろう。僕の胃を病ませる気か?」

「分かってないね。愛情はお金では買えないんだよ」

 イスカはつるりとした白い布で口元を拭った。帰宅してから何度目か分からない溜め息を吐くノクスの肩を軽く叩き、快活に笑った。

「冗談はさておき、私の願いを叶えてもらいたいんだが。貴殿の次の休日はいつだろうか」

 歩き出したノクスの前方に回って、イスカは笑顔で尋ねる。

 ノクスは盛大なため息を吐いてから「明日だ」と低い声で答えた。

「楽しみにしているよ、婚約者殿」

 イスカは心のままに笑みを浮かべ、ノクスを追い抜いて食堂を後にした。
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