忘却の蝶は夜に恋う
「いらっしゃいませ、プルヴィア様。ご注文ですか?」
「ああ。夜会用のドレスを仕立てたい」
店内の奥にあるカウンターでは、衣装のオーダーを承っている。ここでは好きな布を選んで店主とデザインを決め、一から作ってもらうことができるのだ。
ノクスは贅沢を好まないが、一般には並ばない黒色の衣服を好んで着るため、いつもこちらで購入している。……品を選ぶのはセバスチャンだが。
「おや、いいのかい? 一から仕立ててもらうなんて」
馴染みの店員と話をしているノクスの後ろから、イスカがひょっこりと顔を出す。
店員はイスカの顔を見るとにこやかに微笑んだ。
「これはこれは、お綺麗な方ですね。恋人ですか?」
「……いや」
何が気に入らなかったのか、イスカがムッとした顔をする。
「いや、とは何だ。私は貴殿の婚約者だろう」
「婚約者と恋人は違うだろう」
「別物ということかい? それじゃあ君は、婚約者がいる身でありながら恋人を作るということか?」
「どうしてそうなるんだ」
ノクスはがっくりと項垂れた。ならばどうなるんだ、とイスカが責め立てるように顔を近づけてくる。空色の瞳は力強く、吸い込まれそうな輝きを放っていた。
ノクスは慌てて目を逸らし、変な咳払いを一つ吐き出す。そうしてぐるりと目を動かし、どうしたものかと思考を巡らせたその時、ある物が目に入った。