忘却の蝶は夜に恋う
「今ある孤児院は、微々たる国家予算と一部の貴族からの寄付で成り立っている、孤児のための施設だ。僕が設立したいのは、これとは少し異なる」
「孤児院と異なるところは?」
「親がいない子供に衣食住を与え、大人になったら出て行かせる場所ではない。住む場所も食べるものも生きる知恵も持たない子供に、国がそれらを与えるのは当たり前のことだと、僕は考えている」
ふとノクスは足を止める。その目は元気に走り回る子供たちへ向けられていた。
「僕は子供のための教育の場を設けたい。お金のある貴族だけが教師を雇い子供に学ばせるのではなく、この国の全ての子供が将来を選択できるようにしたい。──十年後、読み書きができない子供がひとりもいないように」
夢を語る声から、迷いはひとつも感じられない。
次に目が合った時、ノクスは長い間捜していたものが見つかったような表情をしていた。
イスカは胸元を押さえながら、静かな声音で問いかける。
「だから君は、政官になったのかい?」
「それも動機のひとつだが──」
夜に近い青色の瞳が、イスカの横へと逸らされたときだった。
道の先から数人の男がこちらへ向かって走ってきていた。先頭の男の腕には大きな袋が、その後ろを走る男の手には短いナイフが握られている。