忘却の蝶は夜に恋う


 皇城の門を潜ってすぐ目の前にあるホールで、貴族の娘たちが喧嘩をしている。その報告があったのは、ノクスが出仕してからすぐのことだった。

 エヴァンと今日の日程について軽く打ち合わせている時に、騎士のアスランが血相を変えて報告に来たのだ。ホールで喧嘩が起きている、と。

『誰と誰が喧嘩をしているのです?』

『どっかの貴族の娘と同じく貴族の娘だが、女同士の争いに騎士団が止めに入るわけにもいかなくてだな……』

『何のための騎士団ですか』

『女同士の喧嘩を止めるためではない!』

 たかが女同士の喧嘩すら止められないアスランと、今日も眠そうな顔をしているエヴァンの痴話喧嘩を聞きながら、ノクスはがっくりと肩を落とした。くだらないことを見聞きするのは疲れる為、すぐに二人の間に割って入り、アスランは現場に戻らせ、エヴァンは自分とともに皇帝の執務室へ報告に行くことにしたのだ。

 喧嘩の要因が“皇帝のパートナーを務めるのは誰か”という論争であるのなら、皇帝本人を引っ張り出してくるのが早い。全力で拒否られるのは目に見えているが、女同士の諍いに騎士と政官が使われるなんて馬鹿げている。

 石造りの回廊を、ノクスはイスカと速足で歩いていた。彼女が城に来ている理由は知らないが、邸で留守番をさせている間に変なことが起こるよりはいい。
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