忘却の蝶は夜に恋う

 ノクスがイスカと婚約してから今日で五日目となる。初日の夕方から彼女は邸に居座るようになり、二日目の朝にはとんでもない朝食が、三日目には彼女の願いごとの一つを叶えるために、共に城下町を歩いた。

 四日目はノクスが仕事から帰ると、邸の花壇に不思議な花が増えていた。彼女が自ら植えたらしいが、東方から取り寄せられたというその花は色も造形も香りも独特なもので、セバスチャンが植えた薔薇の存在が薄くなっていた。

 そして五日目。今日こそ平和な一日を過ごしたかったが、どうやらそれは叶わなさそうだ。

「──婚約者殿。一体どうしてそんなことになったんだい?」

「どこぞの馬鹿な伯爵が“我が娘を是非式典のパートナーに”と娘を連れてきて、それを見た馬鹿な侯爵が“私の娘の方が”と言い出し、今度は馬鹿娘同士で言い合っているらしい」

「馬鹿ばかり言い過ぎだよ、婚約者殿」

「馬鹿に馬鹿と言って何が悪い」

 そうは言ってもねぇ、とイスカは苦笑を浮かべる。

 現場へ急ぐノクスとイスカの後ろからは、エヴァンが騒ぐ声が聞こえる。ちらりと後ろを見ると、エヴァンに引き摺られるようにして歩くヴィルジールの姿もあった。執務室から連れ出すことに成功したのはいいが、後が怖そうだ。

「……ご令嬢。陛下を現場に連れていくことで、事は収まると思うか?」

「パートナーの座を巡って喧嘩が起きるだなんて、モテる男は大変だね」

 イスカはくっくと笑い、ノクスを肘で突く。彼女が何を言いたいのか理解できなかったノクスは、突かれたところを摩りながら息を吐いた。
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