忘却の蝶は夜に恋う
祭務省は祭事に関する事務を司り、内務省は外交・財政・司法といった専門的な知識を必要としない事務を司る。この国の行政組織の内部は、先の皇帝が身勝手な理由で政官を削減したせいで人手不足に陥り、さらに二つの省の長官が空席である為猫の手も借りたい状況だという。
「私が男だったら、政官になれたのにな」
イスカの呟きに、ノクスは驚いたように目を瞠った。
「貴女は政治に興味があるのか」
「私を誰だと思っているんだい?」
「イスカーチェリ・ハインブルグ」
「ははっ、それはまあそうなんだけど。これでも私は公爵家の出身で、ヴィルジールとエヴァンの友人を十年もやっているからね」
イスカはふふっと笑いながら、食堂の扉を開けた。ノクスに先に入るよう促し、彼の後に続いて中に入る。
食堂ではセバスチャンが温め直した料理を運んできたところだったようで、会話を弾ませながら入ってきたイスカとノクスを見るなり嬉しそうに笑んだ。
「……なるほど。確かに、あの二人と交友関係を持つなら、馬鹿では無理だな」
ノクスは椅子に座り、水を一気に飲み干した。よほど疲れていたのか、肺の空気を全て吐ききるように息を吐いている。
「私は公爵家の後継者として教育を受けてきたから、あの二人と世論を交わすことなんて造作もないことさ」
イスカはノクスの向かい側に座り、頬杖をつきながらノクスの顔を眺めた。