忘却の蝶は夜に恋う

 皇帝の即位一年を祝う式典の当日は、連日の雨が嘘だったかのような青天に恵まれた。城下町は首都の外からやって来る客を迎えるために、戦後一年とは思えないくらいに飾り立てられ、出店や催し物で賑わっている。

 城では庭園が開放され、今日だけは身分を問わず誰でも入ることが許された。中央にある巨大な噴水には白い花がたくさん浮かんでおり、ヴィルジールが手向けるのを見た誰かが真似をし、次々と水面に浮かべられているようだ。

「ウィンクルムの花だね」

「根から花びらまで食べられる、有り難いお花ですのう」

 セバスチャンと共に城を訪れたイスカは、彼と共に噴水に花を一輪ずつ手向けた。既に水面は沢山の花で埋め尽くされており、近くを流れる人工の細い川にも繋がっているようで、花が流れて込んでいる。何とも不思議な光景だ。

「それではイスカーチェリ様、私はここで失礼いたします。ノクス様のこと、よろしくお願いいたします」

「ああ、任せてくれたまえよ」

 ホールの手前でイスカはセバスチャンと別れた。イスカは式典に参列するためにホールへ、セバスチャンは昔の知り合いと会うらしくどこかへ行ってしまった。

 会場であるホールの受付にはエヴァンが立っていた。イスカの姿を認めると、焦げ茶色の垂れ目をふんわりと和らげ、中に入るよう眼差しで促される。他の参加者は身元の確認をするために、招待状を見せているようだ。
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