忘却の蝶は夜に恋う
「あらぁ、セドリック・オールヴェニスじゃない。相変わらず寒い色ばっかり着てるのねぇ」
ド派手な美人は軽くウィンクをするなり、イスカを背に庇うように立った。セドリックがどんな反応をするのか気になり、後ろからそっと覗いてみると、彼は微笑みを浮かべたまま眉をピクピクと動かしている。
「……ローリエ・ハルメルス」
「やだぁ、何か言った? 男ならもう少しハッキリ喋りなさいよ。女の耳元にヒソヒソ話しかけるなんて、破廉恥な男がすることだわぁ」
オホホ、とド派手な美人は高らかに笑う。見た目も所作も女性そのものだが、イスカの目の前にいるこの人物こそ、ヴィルジールと手紙のやり取りをしていたハルメルス家のローリエで間違いないようだ。
男性でありながら堂々とヒールを履き、凛と顔を上げている姿には思わず見惚れてしまうものがあった。すらりと長身なうえ細いので、タイトなロングスカートもよく似合っている。
「……皇帝の犬が」
そう吐き捨てたセドリックに、ド派手な美人──ローリエはべっと下瞼を下ろし、舌も出していた。
セドリックは立ち去っていった。その姿が人混みに紛れたのを見届け、ローリエはイスカと向き直る。
「改めまして、アタシはローリエよ。会うのは初めましてよね、イスカちゃん」
ローリエから手が差し出される。イスカもそれに倣って手を出すとぶんぶんと元気な握手をされた。