忘却の蝶は夜に恋う


 式典は滞りなく終えた。皇帝のスピーチの原稿が何者かにすり替えられていた点を除けば、概ね予定通りだったと言っていいだろう。

 式の途中でイスカが派手な格好をしている人と一緒に、口パクで何か言いながら手を振ってきた姿を見た時は、冷や汗をかかされたが。

「──ひとまずお疲れ様でした。これから夜会の準備に入りますので、夕刻にまた集合してください」

 ホールの二階──分厚いカーテンの裏側で、エヴァンが手帳を見ながらこの後の予定の確認をしている。今この場にいるのは皇帝であるヴィルジール、護衛であるアスランとその部下が四名、宰相であるエヴァンと補佐であるノクス、そして皇帝の身の回りの世話をしている少年だ。

 四時間後にはホールで夜会が開かれる。軽食とワインを片手に交流や社交ダンスを楽しむ場だが、貴族の集まりのようなものなので、ノクスは気が乗らなかった。

 身支度の為、一同はホールから居館へと移動をする。一階にある化粧室と客間が貸し出されている為、いつもは閑散としている玄関ホールが今日は賑やかになっていた。幸運なことにヴィルジールの姿を近くで見ることができた令嬢が、頬を赤く染め上げてうっとりとしている。

 ノクスが執務室へ戻ると、何故か中にはセバスチャンがいた。
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