絶対零度の王子殿下は、訳アリ男装令嬢を愛して離さない
 女の身ならまだしも、男でもそんな心配をしなければいけないのかと怖くなる。女の自分が襲われたら、抵抗してもその力の差は歴然だから無意味に終わってしまうだろう。

「僕の兄さんがここの卒業生で、過去にもそういうことがあったって聞いたことがあるんだ」
「それは、俺も小耳にはさんだことある。しかも、ほとんどは低階級の生徒が狙われて、泣き寝入りだって聞いたな」
「ひどい……」
「酷い話だよね。まぁ、カイルは爵位は高い分、そうそう手が出せないと思うけど、用心したに越したことはないよ」
「ギャスの言う通りだ。お前は殿下のそばにくっついてろ……って、まぁ殿下が許してくれるならの話ですけど」

 二人の視線が向けられたアンリはゆっくりと頷いて、「問題ない。はなからそのつもりでいる」ときっぱりと言い放った。

「え……」

(はなからって……一体いつから?)

 セレナの頭の上にはてなマークが浮かぶ。まだ出会って二日しか経っていないのにと、不思議に思ったが今の論点はそこではないなと頭から打ち消す。

 セレナからすれば、王子という絶対的立場にいるアンリに後ろ盾についてもらえることほど安心なことはない。だけど、王子にくっついて、挙句の果てに守ってくれなんて頼んでいいのだろうか。

(いや、だめに決まってる。殿下をボディガード代わりにするなんてだめ)

「さ、さすが殿下! 話が早い。な、なぁ、ギャス」
「う、うん、そうだね! 殿下がついててくれれば僕たちも安心だなぁ~」

 二人は、予想外のアンリの返事にたじろぎつつも、当事者のセレナを置き去りにして話を勝手に終わらせようとしているではないか。セレナは焦って前のめりに訴えた。

「で、でもっ、殿下には殿下のご都合がありますから!」
「俺は構わない」
「ほら、殿下もこう言ってくれてるんだ。ありがたく頼んでおけばいい」
「そうだよカイル。くれぐれも一人で行動しちゃだめだからね」
「そんな……」

 多勢に無勢とはこのことで、セレナはそれ以上の反論を許してもらえなかった。

< 12 / 56 >

この作品をシェア

pagetop