絶対零度の王子殿下は、訳アリ男装令嬢を愛して離さない
 守られて優しさをもらうばかりの自分が情けない。
 なにかみんなのために自分ができることがあるだろうか。そういくら考えてもなにも思い浮かばない。非力な自分が彼らに与えられるものなどあるわけがなかった。

「僕が頼りないばっかりに……ごめん」
「僕は思うんだけど……、人は不完全な生き物だから、足りない部分はお互いに補い合って助け合っていけばいいと思ってる。だからさカイル、誰かになにか嬉しいことをしてもらった時は、なんて言うのが正解?」
「……ありがとう」
「大変よくできました! はなまるー!」

 ギャスパーは両手を使って大きな丸を作ってみせた。
 目が無くなるくらいの弾ける笑顔に、セレナも釣られて破顔一笑する。
 目尻から滲む涙が頬を伝う前に手で拭い取った。

「それにしても、殿下のカイル大好きっぷりはすごいね」
「だっ……、で、殿下は優しい人なんだよ」

 アンリの優しさに触れると、時折自分がカイルだということを忘れそうになってしまう。今までは特に父親の目があった手前、常に意識して振舞っていた。だけど、かつてのカイルを知る家族や親族、知人のいないここは、セレナを解放的な気分にさせるのだ。自分に無条件で優しくしてくれるアンリの前だと殊更に。それに甘えてしまっている自分をセレナは自覚していた。

「確かにさ、噂みたいな冷たい人じゃないってわかったけど、カイルだけは別格。超特別待遇」
「ふっ、なにそれ、そんなわけないよ。贔屓目に見ても同室のよしみってくらいだよ」
「……」

 王子という立場から、弱い人間を見ると放っておけないのだろうとセレナは思っていた。
 急に無言になったギャスパーを振り返ると、彼は鳩が豆鉄砲を食らったような顔でこちらを見ている。

「ギャスパー?」
「カイル、それマジで言ってる?」
「え……今、冗談を言う要素あった?」

 首をかしげるセレナを見て、ギャスパーはつぶやく。

「うわぁ……殿下かわいそ……」
「え、なに?」
「いや、なんでもない。授業始まるから急ごっ」

 駆け出したギャスパーの後をセレナも追った。

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