絶対零度の王子殿下は、訳アリ男装令嬢を愛して離さない
 胸の前で両掌を進行方向にかざし、感覚を研ぎ澄ます。かすかな反応を頼りに歩を進めていくと、どんどん反応が強まった。目視でも確認しながら探すがそれらしいものは見当たらない。

「どこだろう、この辺りにあるはずな――わあっ!」

 地面に下ろしたはずの足が空を蹴り、ガクンと体ごと落ちていく。けれどそれは一瞬で、セレナの身体は一メートルほど斜面を滑って止まった。ちょっとした段差になっていたところを、魔法に集中するあまり気づかず踏み外してしまったようだ。

「いたたたた……崖じゃなくてよかったぁ……、いっ」

 立ち上がろうと足に力を入れた時、激痛が走った。踏み外した左足のズボンの裾をめくると、なにか鋭利なもので擦ってしまったのか、傷ができて出血している。傷こそ浅くて大した事はないけれど、どうも筋をやってしまったらしい。足に体重をかけてみるが、痛くてとてもじゃないけど立てない。
 セレナはとりあえず、ハンカチで傷口を縛って止血しておいた。

「どうしよう……」

 大きく息を吐いて、セレナは脱力する。

(なさけないなぁ……)

 アンリがいなくても、自分はちゃんとやっていけるということを見せたかったのに上手くいかない。
 怪我をしていない方の膝の上に顎を乗せて目をつぶり、込み上げてくる涙を必死に抑え込んだ。

「ピィッ」

 鳴き声に目を開けると、目の前に小鳥がいた。スズメよりも一回り程大きい、瑠璃色の羽をした美しい鳥に、セレナは目を瞠る。
 小鳥はちょんちょんと小刻みにジャンプしてセレナの足元まで来た。

「ふふ、かわいい。懐っこいんだね」

 怖がらせないように、そっと小鳥の目の前に指を置くと、ぴょこんと飛び乗ってきた。

「綺麗な色をしてるね、殿下の瞳の色もきみと一緒でとても綺麗なんだよ」

 セレナはアンリの透き通った瞳を思い浮かべる。一見冷たく見えるスカイブルーの瞳だけど、セレナに向けられる眼差しにはいつだって優しいぬくもりを宿している。
 怖いと感じたことは一度だってない。

「ん? あぁ、ちょっと足を怪我しちゃったんだよ」

 小鳥がセレナのハンカチを巻いた足に移動したと思えば、すり寄ってきた。懐っこい鳥だなぁと見ていたら、つぎの瞬間には小鳥の姿はもうなかった。

「えっ……? 小鳥さん……?」

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