絶対零度の王子殿下は、訳アリ男装令嬢を愛して離さない
「宮廷魔導士長に頼んで作ってもらったから、値段はついていない」
「きゅうてい……え?」

 それを聞いて、セレナの顔から血の気が引いていく。
 王宮の魔導士団のトップである宮廷魔導士長は、つまりこの国で最も優れた魔法使いと言っても過言ではない人だ。そんな人が作った魔道具は、確かに値段などつけられないだろう。それに、たとえ値段をつけられたとしても自分が払えるとは到底思えない。

「まぁ、彼にとってこの程度の魔道具は朝飯前だから気にする必要はない」

 アンリの言う通りなんだろうな、と納得しかけた自分をセレナは内心で否定する。

(そういう問題じゃないのに……)

「この前の校外授業のときみたいに、俺が君のそばにいられないときもあるだろうから、万が一のお守りだと思ってくれればいい。あのときは、怪我だけで済んだからよかったものの、もし誰かに危害を加えられたらなす術がないじゃないか」
「で、でも……」
「もしかしてデザインが気に入らないか? それならほかの宝石をいくつか見繕ってこよう」
「いっ、いえっ! 十分素敵です、僕にはもったいないくらいとっても素敵です!」
「そうか、ならよかった。きっと君に似合うと思って選んだんだ」
「殿下が……?」
「あぁ、そうだ」と頷くアンリを見て、セレナの胸が高鳴る。
「俺を安心させるためだと思って受け取ってくれ」
「あ……」

 セレナの返事を待たずに、アンリは華奢なゴールドのチェーンをつまみ上げるとセレナの首にそれをそっと掛けた。
 近づいた拍子にアンリの爽やかな香りがして、どくどくと鼓動が速まった。つい先日、アンリに抱くこの感情を自覚して封印しようと決めたばかりなのに。またしてもアンリの優しさに、セレナの心はグラグラと揺さぶられてしまう。
 泣きたくなるくらいに、嬉しかった。
 アンリが自分の身の安全を守るためにわざわざ宮廷魔導士長に制作を依頼してくれたことも、こんなに綺麗な水晶を選んでくれたことも、すべてが愛おしくてたまらない。

(思ってるだけなら……)

 決して言葉にはしないから。胸の裡だけに秘めておくから。
 どうか、この気持ちを許してほしい。

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