絶対零度の王子殿下は、訳アリ男装令嬢を愛して離さない
 今は授業中で、ここはただでさえ使用頻度の低い特別棟だ。誰かが通りかかる可能性は極めて低かった。クラスの皆が授業をしている教室もこの棟の三階だから、ちょっとやそっとじゃ声も物音も届かないだろう。

 後がなくなり、女だということがバレるだけでなく、この男に辱められてしまうのかと絶望的な気持ちになる。

(そんなの、いや……!)

 悔しさに、目尻からは涙が滲む。

 男がローブとブレザーを乱暴にはぎ取り、とうとうシャツのボタンに手をかける。

「ん……? なんだ? シャツの下になにを着ている?」

 胸が目立たないように着ていたコルセットを見て首を傾げた男は、一拍置いて瞠目した。

「はっ……ま、まさか、君は……! あぁ、なんというめぐり合せ! これは天の思し召――ぐはッ」

 軽い衝撃とともに、体が軽くなる。
 男が、一瞬にして消えたのだ。

 ガラガラと机や椅子が倒れる音がした方を見ると、壁に激突して項垂れる男の姿があった。
 なにが起きたのか呆気に取られていると、視界が陰る。

 青が、輝いていた。
 綺麗な、透き通るような青い宝石だ。
 この青を、自分は知っている。

「カイル! 大丈夫か⁉」
「でん、か……」
「なにをされた! 怪我はないか⁉ 痛むところは?」

(どうして、殿下がここに)

「すまない……、来るのが遅くなった……。すまない……っ」

 体をそっと起こされて、そのまま抱きしめられる。
 優しいぬくもりに包まれ、さっきまでの恐怖が嘘のように消えていく。

(まるで魔法みたい)

 セレナは、込み上げてきた安堵感に身をゆだねた。

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