絶対零度の王子殿下は、訳アリ男装令嬢を愛して離さない
「言いたくなければ無理に聞かないが……、あの男になにをされた? 本当に痛むところはないのか?」
「はい大丈夫です……頬と首を、舐められただけです……」
「そうか……、すぐに助けてやれなくて、すまなかった」

 どうしてアンリが謝るのか。
 泣き過ぎて重たい頭で考えていると、アンリが魔法の呪文を唱え始めた。
 かきむしってひりひりと痛む頬や首周りが、じわじわと温かさを帯びていく。その心地よさに、覚えがあった。けれど、それがどこでだったかまでは思い出せない。

「謝らないでください。殿下と、殿下のくれたペンダントのおかげで事なきを得ました。殿下こそ、どうして僕の居場所がわかったんですか?」
「それが発動すると俺の魔道具で感知できるようになっているんだ。運よく魔導士長がそばにいたから転移してもらえたからよかったものの……、倒れている君を目にしたときは心臓が止まるかと思った……」

 治療が終わったのか、アンリはセレナの顔から離した手を今度は背中に回してそっと抱きしめる。

「怖かっただろう」

 まるで赤子をあやすように背中をとんとんと優しく叩かれて、引っ込んだはずの涙がまた溢れてきた。

「……っ、怖か、った……」
「そうだよな、怖かったよな……。けど、大丈夫……、もう大丈夫だ」

 アンリの胸から直接響いた低い声音が、セレナの中の記憶と結びつく。

(そう、だ……この声……!)

 あの夢の中で苦しみにもがくセレナを救ってくれた、温かくて優しいぬくもりと声は、アンリのそれと同じだった。靄が晴れて、全てがはっきりと繋がる。
 驚いたセレナはアンリの胸をそっと押して顔を上げた。

「殿下……もしかして、殿下が留守だったこの三日間、夜中に僕に治癒魔法をしてくれました……?」
「……勝手にすまない。……構うなと言われたのに」

 やはりあれは、アンリの治癒魔法だったのだ。
 公務で忙しいのにわざわざ夜中に寮に帰ってきて、痛みにうなされる自分を治癒魔法で介抱してくれていたなんて。
 アンリの優しさに、胸の奥が焼けるように熱くなった。

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