君のためにこの詩(うた)を捧げる
一方その頃。



澪と湊は図書室で並んで座っていた。



「この前のテスト、意外と苦手なんだね」




「バカにしないでよ」



笑い合うその空気が、ほんの少し温かく感じた。



(ひかるのいない毎日。
でも、湊くんと話してると、心が静かになる。)



ページをめくる指先が触れた。



一瞬、息が詰まる。
湊が優しく笑う。



「……君、やっぱり可愛いね」



「え?」



「ごめん、言葉が出た」



その瞳は、最初の頃よりずっと真っ直ぐだった。




澪は気づかない。
この“優しさ”が最初は計算だったことを。




夜。



七海のスマホに、湊からメッセージが届いた。




【順調だよ。澪とだいぶ仲良くなった】



七海は返信を打ちかけて、
画面に映る“澪の笑顔”の写真を見つめた。



(……ほんとにこれでよかったのかな)



罪悪感が、胸の奥を締めつけた。


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