君のためにこの詩(うた)を捧げる
翌週の放課後。



校門を出た澪の前に、
黒いキャップを深くかぶった男が立っていた。



「……ひかる?」



「澪」



彼は息を切らしていた。



「なんで、あの男と一緒にいるんだ」



「え? 湊くん? ただの友達――」



「嘘つくな。
お前、知らないだろ。あいつ、七海の事務所の関係者だ」



「え……?」



「澪を“利用”してる。
俺を刺激するために送り込まれたんだよ」



目の前が揺れる。

信じたくない。


でも、
輝の表情は真剣だった。



「離れて。
……もう誰にも、お前を利用させたくない」



その言葉には、怒りと焦りと、
抑えきれない“愛しさ”が滲んでいた。



「でも、ひかる……」



「俺がいない間、誰も触れさせない。
澪は俺の――」


言いかけて、彼は唇を噛んだ。



強く、震えるように。



そのまま、背を向けて歩き出す。



澪は叫びそうになる喉を押さえ、
ただ立ち尽くした。



(どうして……
“君を奪う”って言ったのに、
またこんな顔で私を置いていくの……?)



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