君のためにこの詩(うた)を捧げる
その瞬間。



「……何してんだよ」


低く、押し殺した声がした。



振り向くと、
校門の影に、黒いパーカー姿の輝が立っていた。



表情は冷たく、でもその目は怒りで震えていた。



「……ひかる……違うの、これは――」



「見たよ」
輝は澪の言葉を遮るように一歩近づく。
「やっぱり、あいつと一緒にいたんだな」


湊が前に出る。



「違う。俺が勝手に――」



「お前がどうとか関係ない。
澪は、俺の大事な人なんだ」


「でも、お前、もう離れたんだろ?」



一瞬、空気が凍る。



輝の胸に突き刺さるような言葉。



湊の拳が震える。



「芸能人だかなんだか知らないけど、
君がいない間、澪はどれだけ寂しかったか、知ってるか?」


「……知ってるよ」
輝は低く答えた。



「だから、戻ってきた。
――誰にも、もう奪わせない」


その声は、痛いほど真っ直ぐだった。



湊は一歩も引かない。



「俺だって、もう本気だ。
澪が君を想って泣く姿を見た。
そのたびに、俺は……放っておけなかった」


二人の間に、火花のような沈黙が走る。



澪はただ震える手で胸を押さえていた。



(どうして、こんなふうに……
どっちも、優しいのに……)


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