「君を愛することはない」と言った夫が、記憶だけ16歳に戻ってまた恋をしてきます
 ふわりと、シルバーブロンドが舞うように浮かび上がった。とん、と地面に足が着いたかと思えば、一呼吸遅れてそれが落ちる。まるで猫のようにしなやかだった。

「なあ、身長何センチ?」

 そのまま、また顔を覗き込まれた。しげしげと灰青色の目が頭の先から爪先まで滑っていく。

「百五十五センチ、ですけど」

 アンジェリカはとりわけ背が高いということもないが、低いということもない。この国でも平均的な身長だと思う。

「そっかあ。じゃあ、オレよりちょっと小さいくらいか」
「え」

 ヴィルヘルムは確か百八十センチ近くあったはずだ。現に今も、見上げる程の長身だ。 アンジェリカの怪訝そうな顔を見て気づいたのだろう。
ヴィルヘルムは、

「ああ、オレずっと、百六十ぐらいだったんだよ」

 そこではじめて、十二年という歳月を思い知った。十六歳のヴィルヘルムは、それぐらいの身長だったのだ。

「多分この後(・・・)伸びるんだよな。チビなの嫌だったからそれはそれで嬉しいんだけどさ」

 アンジェリカにとっての当たり前の毎日は、彼にとっては十二年後の未来なのだ。そのことを、やっと実感できた気がした。

「にしても大変だよな」
「はい?」
「こんな時間に夜警の確認もしなきゃいけないんだろ」

 どうやらヴィルヘルムはアンジェリカが、警備の確認に来たのだと思い込んでいるらしい。散々彼の立ち振る舞いについて口を出した手前、ただフラフラしていたとは言い難い。

「え、ええ」
 嘘だとも本当だともアンジェリカは言えなかった。

「なあ、あんたの部屋って、ここからどっち?」
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