「君を愛することはない」と言った夫が、記憶だけ16歳に戻ってまた恋をしてきます
「あの、ですから」
「いいじゃん。だったらオレの向かいに座っててよ」

 そのまま、ぐっと顔を覗き込まれる。

「だめ?」

 そう問われれば、だめなことはない。
 傍から見れば、王太子とその妃がともに昼食を取るだけだ。咎められるようなことは、何一つとしてない。

 そうして気が付いた時には、アンジェリカはヴィルヘルムの向かいに座っていた。

 彼の前には料理が所狭しと並べられている。

 元々ヴィルヘルムはこんなに沢山の食事を食べる人だったのだろうか。食事を共にしたことが全くないということはないが、それは大抵公式の晩餐会などの場だったから普段の食事については知る由もない。

 ただ、さすがは王族というべきなのか、どれも綺麗な所作でとてもおいしそうに食べるので、不快な印象は受けない。
 なんなら、湯気とともに立ち上る料理の匂いに少しお腹が空いてきてしまうくらいには。

 ぼんやりと座って、さながら生い茂る森の木々をなぎ倒していくかのごとく食べ進める様を眺めていたら、美しい男は食べかけの肉の皿から顔を上げた。

「……食べる?」

「け、結構です!!」

 もしかして自分はそんなにも物欲しそうな顔をしてしまっていたのだろうか。表情で考えているようなことを悟らせるようでは、三流もいいところだ。

「いいじゃん、食べなよ」
「ですから、結構ですと」
「あ、やっぱり食べかけじゃだめか。じゃあスープにする?」

 そういうことを言っているのではない。けれどヴィルヘルムはどこ吹く風で、スプーンでスープを一さじ掬って差し出してみせる。

「はい、あーん」
 つまりはこれを食べろ、ということなのか。

「え、えっと」

 アンジェリカはそれを見てしばし固まるほかなかった。

「なんで? こっちはまだ手着けてないよ?」
「その、皆が、見ておりますし……」

 衆人環視の中、大口を開けて食事を取るようなことを許されるようにはアンジェリカは育てられていない。そもそも人のものをもらうだなんて行儀が悪いにもほどがある。

「あ、なるほど」

 スプーンを戻して、ヴィルヘルムは納得したようにぽんと手を叩いた。よかった、やっと説得に成功したようだ。

 けれど、そう思ったのもつかの間。

「じゃあ、みんな悪いんだけど。アンが恥ずかしいらしいから、ちょっと向こう向いといてくれる?」
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