「君を愛することはない」と言った夫が、記憶だけ16歳に戻ってまた恋をしてきます
 二十八歳のヴィルヘルムは、振り返りもせずアンジェリカのことを見なかった。
 十六歳のヴィルヘルムとは、目が合う。

 その目はいっそ不躾なほどにアンジェリカを見つめてくる。

 元の夫に戻ってほしいと、アンジェリカは心の底から願っている。
 その気持ちに嘘はない。
 頭ではそれが一番正しい選択であると分かっている。

 けれど、彼らは共に在ることはできないのだ。

「このこと、殿下には」

「まだお話しておりません。まずは妃殿下に、と」
 魔術師団長はよく心得ている。

 この国に必要なのは奔放な十六歳のお子様ではない。強く正しく国を守れる二十八歳の王太子だ。

「絶対に殿下のお耳には入らないようにして。万が一、解呪を拒むようになったりしたら大変だわ」
「承知いたしました」

 もう一度恭しく礼をして、魔術師団長は王太子妃の部屋を後にした。

 彼がいなくなった部屋の中で、大きく息を吐く。

 心のどこかで、呪いを解く方法なんて見つからなければいいのにと思ってしまう自分がいた。

 気は休まらないし、正直子守りは勘弁願いたい。
 そう思っているのに、縋るように「アン」と名前を呼んできた声が耳に焼き付いている。

 あの宝石のように輝いた灰青色の瞳は、アンジェリカの心をぎゅっと掴んで離さないのだ。
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