「君を愛することはない」と言った夫が、記憶だけ16歳に戻ってまた恋をしてきます
「……兄上が死んだのはオレが十七になった時だ。その時あんたはまだ、故郷にいたんだろ」

 ヴィルヘルムが十七だというなら、アンジェリカはその時十一歳だ。それは、正しい。アンジェリカは頷くだけで応える。

「だったら、あんたには何も関係が」

 これには顔を上げざるを得なかった。

「関係がないことなんて、ないんじゃないでしょうか」

 それを言うのなら、何も関係がない。
 自分が捻挫をしたことも、それを隠していたことも、そのまま舞踏会に出たことも。

 何一つ、ヴィルヘルムには関係がなかっただろう。それでも、彼は「話してくれ」と言ったのだ。だったら、こちらも同じことだ。

「夫婦ですから、わたし達がともにいるのは当然のことです」

 やっとのことでハンカチを結び終えたら、ぽつりとヴィルヘルムは言った。

「夫婦、か」

 腰に手が回されて抱き寄せられたと思ったら、世界が回った。

「あんたはいつも、そう言うな」
「へっ」

 目の前にあるのは大広間の天井で、その中心にヴィルヘルムがいる。押された右肩と背中に感じる固いカウチの感触。

「夫婦だったらさ、こういうことも、したんだろ」

 迫りくるようにアンジェリカを押し倒して、十六歳の夫は問うてくる。このまま彼が何をしようとしているかが分からないほど、自分も子供ではない。

 どん、とアンジェリカの顔の横に大きな手が突かれる。その音に、体がびくりと震えた。

「あんたも、早く呪いが解けたらいいと思ってるんだろ。こんな、魔法もろくに使えない子供じゃなくて、ちゃんとした夫に戻ってほしいって、ずっと思ってんだろ!」

 ああ、またわたしは分からなかった。このヴィルヘルムはずっと知っていたのだ。

 軽んじられていることを、己の向こうに皆、二十八の自分を見ることを。
 それでも、必死で頑張っていたのに。
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