「君を愛することはない」と言った夫が、記憶だけ16歳に戻ってまた恋をしてきます
「コンラート様がお亡くなりになったのは、ご遠征の時です」
 きっかり一時間後に現れたのは、グレンだった。

 忠義者の侍従は、「申し訳ございませんでした」と深々と頭を下げた後、そう続けた。アンジェリカはそれを、ヴィルヘルムの隣に座って聞いていた。

「辺境の魔物退治にご兄弟でとともに向かわれた際に」

 そうか、やはり病気だというのは、嘘だったのか。

「ヴィルヘルム様を、お庇いになっての怪我だったとお伺いしております」

 膝の上に置いた手を、ヴィルヘルムがぐっと握りしめたのが分かった。手の甲に血管が浮かび上がる。
 グレンの顔が目に見えて曇った。語り口が一段低くなって、続ける。

「ヴィルヘルム様は、その後目に見えて魔法の鍛錬に励まれて……」

 ああ、そうか。やっと分かった。
 ヴィルヘルムは、兄を失ってその責任を感じて、十六歳の頃ほとんど使えなかった魔法を習得できるようにしたのだろう。

 そして二十八歳の彼は、ファーレンホルストにこの人ありと言われるほどになったのだ。

 平行線を行くばかりだと思っていた、隣にいる男と冷徹を絵に描いたようだった夫の姿が、ほんの少しだけ交わった。

「分かった。教えてくれてありがとう、グレン」

 ヴィルヘルムはずっと静かにグレンの話を聞いていた。すっと伸びた背筋は、二十八歳の彼を彷彿とさせる。

 窓から差し込んだ夕日が、ちらばったガラスを照らしている。歪な反射が床に落ちて、心がざわりとするほどきれいだった。
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