「君を愛することはない」と言った夫が、記憶だけ16歳に戻ってまた恋をしてきます
突き刺さるような視線を感じる。この国の頂に立つ者達が皆、固唾を飲んでアンジェリカの成すことを見つめている。
王女だった頃から、人に見られることには慣れている。いつだって自分は消費される側の人間だ。
「いや、待って、心の準備が。オレ、はじめてで」
それを言うならアンジェリカだってそうだ。
あなたがキスしなかったから、わたしは男の人とキスしたことなんかない。
ぎゅっと目を閉じて、押し付けるようにして唇を重ねる。ヴィルヘルムがはっと息を呑んだのが分かった。やわらかなそれが怯えるように震える。
気負った割には、容易いことだった。鼻で笑ってしまいたくなるぐらいには。
一呼吸ののちに、そっと離れた。
ゆっくりと目を開けたら、まんまるになった青い瞳と目が合った。光が差し込む部屋では、この目はこんなにも明るく見えるのだなと思った。
ヴィルヘルムは顎に手をやって、そのまま確かめるように長い指で唇をなぞった。
「あー……」
投げかけられた声は軽い。そのままヴィルヘルムは鬱陶しそうに頭を振って、天井を仰いだ。
誰も何も言わない。けれど、何が起こったかは全員が理解している。明確な気まずさが部屋に満ちる。
「つまり二十八歳のオレはモテなかった、と」
殊更おどけたような調子は、ヴィルヘルムが未だ十六歳だということを明白に示している。
そして、このことが示すのは。
「あのさ、おばさん」
疑うように首を傾げてヴィルヘルムはアンジェリカに問う。その瞳は僅かに翳って、灰色が濃くなる
。
「ねえ、オレたち、本当に夫婦だったの?」
そうだ、呪いを解く条件は、愛する者の口づけだと魔術師団長は言った。
ヴィルヘルムはアンジェリカを愛してなどいなかったということだ。
たまらず、アンジェリカは逃げるように部屋を後にした。ばたん、とみっともなくドアを閉める音だけが、やけに大きく響いた。
王女だった頃から、人に見られることには慣れている。いつだって自分は消費される側の人間だ。
「いや、待って、心の準備が。オレ、はじめてで」
それを言うならアンジェリカだってそうだ。
あなたがキスしなかったから、わたしは男の人とキスしたことなんかない。
ぎゅっと目を閉じて、押し付けるようにして唇を重ねる。ヴィルヘルムがはっと息を呑んだのが分かった。やわらかなそれが怯えるように震える。
気負った割には、容易いことだった。鼻で笑ってしまいたくなるぐらいには。
一呼吸ののちに、そっと離れた。
ゆっくりと目を開けたら、まんまるになった青い瞳と目が合った。光が差し込む部屋では、この目はこんなにも明るく見えるのだなと思った。
ヴィルヘルムは顎に手をやって、そのまま確かめるように長い指で唇をなぞった。
「あー……」
投げかけられた声は軽い。そのままヴィルヘルムは鬱陶しそうに頭を振って、天井を仰いだ。
誰も何も言わない。けれど、何が起こったかは全員が理解している。明確な気まずさが部屋に満ちる。
「つまり二十八歳のオレはモテなかった、と」
殊更おどけたような調子は、ヴィルヘルムが未だ十六歳だということを明白に示している。
そして、このことが示すのは。
「あのさ、おばさん」
疑うように首を傾げてヴィルヘルムはアンジェリカに問う。その瞳は僅かに翳って、灰色が濃くなる
。
「ねえ、オレたち、本当に夫婦だったの?」
そうだ、呪いを解く条件は、愛する者の口づけだと魔術師団長は言った。
ヴィルヘルムはアンジェリカを愛してなどいなかったということだ。
たまらず、アンジェリカは逃げるように部屋を後にした。ばたん、とみっともなくドアを閉める音だけが、やけに大きく響いた。