「君を愛することはない」と言った夫が、記憶だけ16歳に戻ってまた恋をしてきます
アンジェリカとヴィルヘルムはただの政略結婚だったはずだ。国と国との結びつきに、婚姻は一番手っ取り早い。そこに必要なのは利権と政の駆け引きであって、愛だの恋だのではない。ないはずだ。
「聞こえなかったのか」
切れ長の目は突き刺さるような鋭さで、使者たる自分に向けられる。背筋を冷や汗が伝っていくのが分かる。なまじ容貌が整っているだけあって、それは彫像がごとく人間味がなかった。
「しかし」
「貴国の根拠は、私とアンジェリカが“白い結婚”であるということだったな?」
口を開いた使者を一刀両断するように、ヴィルヘルムは言った。
その通りである。
この国に忍び込ませブロムステットの間者は、ヴィルヘルムとアンジェリカが真に夫婦でないという話を掴んでいた。
「けれど、それをどうやって知り得た? まさか閨を覗き見たということもあるまいし」
情報源を明かすことはできない。けれど、この二人は確かに冷え切った仲だったはずだ。
「もう一度言う」
ヴィルヘルムは静かにそう言って、アンジェリカの頬に手を当てた。紫色と灰青の瞳の視線は交わり、熱く見つめ合った。
「私は、アンジェリカを愛している」
言うが早いか、王太子は迷いなく妃の唇に己のそれを重ねた。
「なっ!」
使者は息を呑んだ。漏れ出た声は自分のものだったのか、それとも控える他の者達のものだったのか、分からない。
誰が冷え切ったなどと言った?
人前で恥ずかし気もなく口づけを交わす夫婦の、何が冷え切っているというのか。
そう思う間もまだ、二人の姿は重なったままだった。ヴィルヘルムの大きな手は押し付けるようにアンジェリカの後頭部に添えられている。
「聞こえなかったのか」
切れ長の目は突き刺さるような鋭さで、使者たる自分に向けられる。背筋を冷や汗が伝っていくのが分かる。なまじ容貌が整っているだけあって、それは彫像がごとく人間味がなかった。
「しかし」
「貴国の根拠は、私とアンジェリカが“白い結婚”であるということだったな?」
口を開いた使者を一刀両断するように、ヴィルヘルムは言った。
その通りである。
この国に忍び込ませブロムステットの間者は、ヴィルヘルムとアンジェリカが真に夫婦でないという話を掴んでいた。
「けれど、それをどうやって知り得た? まさか閨を覗き見たということもあるまいし」
情報源を明かすことはできない。けれど、この二人は確かに冷え切った仲だったはずだ。
「もう一度言う」
ヴィルヘルムは静かにそう言って、アンジェリカの頬に手を当てた。紫色と灰青の瞳の視線は交わり、熱く見つめ合った。
「私は、アンジェリカを愛している」
言うが早いか、王太子は迷いなく妃の唇に己のそれを重ねた。
「なっ!」
使者は息を呑んだ。漏れ出た声は自分のものだったのか、それとも控える他の者達のものだったのか、分からない。
誰が冷え切ったなどと言った?
人前で恥ずかし気もなく口づけを交わす夫婦の、何が冷え切っているというのか。
そう思う間もまだ、二人の姿は重なったままだった。ヴィルヘルムの大きな手は押し付けるようにアンジェリカの後頭部に添えられている。