「君を愛することはない」と言った夫が、記憶だけ16歳に戻ってまた恋をしてきます
「今のオレ(・・)、なんであんなクールで仕事出来てみたいなことになってんの?」

 深い意味があったわけではない。ただ伝え聞く己の姿が、どうにも自分と結びついているようには思えなかった。

 冷静沈着で頭脳明晰。魔力の扱いは群を抜いていて、非の打ち所のない完璧な王太子。

 誰だ、そんなやつは。
 そんなやつが、オレであるわけがない。

「一体なんなんだろうな」

 分からないことは多くある。十二年という歳月は、あまりに長い。試しに十二年前の自分を想像してみたが、齢四つのお子様が何を考えていたかなんて、忘却の彼方に消え去っていた。

 だから、きっと向こうの自分から見れば、今のヴィルヘルムもそうなのだろう。

「これは、私の個人的な感覚ですが」

 グレンはそう前置きして、言った。

「私は、殿下が変わられたとは思いません」
「へ?」

 ヴィルヘルムは目を瞬いた。

「お前、オレと木に登って怒られたの忘れてる?」
「忘れたことはございません。そのあと池に突き落とされたのまで、きちんと覚えております」

「ごめん、悪かった」
「いえ、大変得難い経験をさせていただきました」

 ヴィルヘルムにとっては昨日のようなことだが、グレンはふっと目を細めて懐かしむように微笑んだ。

「あの頃の殿下は多分、“第二王子”という役を演じておられたのだと思います」

 続く言葉は、ヴィルヘルムを驚かせるのに十分なものだった。

「コンラート殿下を一番に引き立てるように、兄上が立派に見えるように、殊更おどけて明るく振舞っておられたのではないでしょうか」

「お前、オレのことずっとそんな風に見てたの」

 不満そのままに睨みつけてしまったら、よくできた侍従は一度「申し訳ございません」と頭を下げた。

「私も、あの頃は分かりませんでした。王太子となられてからの殿下をおそばで見ていて、やっと分かったんです」

 道化を道化だと見破られることほど、恥ずかしいことはない。それに意図してやっているというほどのことではなかった。

「……ほかに、どうしていいのかわからなくてさ」
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