Existence *

不安と愛情

気づけば10月に入り、美咲のお母さんが入院して1ヶ月が経っていた。

そして美咲が日本に帰ってきて2ヶ月が経っている。


5年前が嘘のようにこの2ヶ月、ほぼ美咲と会っていた。

むしろこの1ヶ月はほぼ毎日、一緒に居る。

それがもちろん嫌って訳じゃない。

今まで一緒に居る事がほとんどなかったから一緒に居られることが俺は嬉しい。


だけど、それが逆に美咲の表情をすぐ読み取ってしまう所が俺の悪い癖だった。

いや、癖と言うか職業柄?

もうそんなホストなんて遠い昔の事だけど――…


「お前は一体、ここで何しに来てんのか分かんねぇなぁ…」


苦笑いしながら隣に居る蓮斗はタバコを吸いながら俺に視線を送ってきた。


「何って仕事」

「それのどこが現場仕事なんだっつーの」


昼の仕事の休憩中。

プレハブの部屋の中で俺はパソコンを開いて、次の仕事の企画書を作っていた。


「家でさぁする時間ねぇんだよ」

「あー…美咲ちゃん居っから?」

「そう」

「帰ってからしてたんじゃねぇのかよ」

「してたけど、最近は19時か20時に帰って、飯食って風呂入ってとかしてたらする時間すらまったくねぇの」

「めんどくせぇなぁ。もう言っちまえよ」

「そんな事言ったら更に心配されるわ」

「うん?更にってなに?」


クスクス笑う蓮斗に、心の中で、“あ、“と呟く。

思わず無意識に言ってしまった言葉に蓮斗は面白そうに俺を見つめてくる。


「いや、なんでも…」


パソコンから視線を蓮斗に向けると、タバコを咥えたままの蓮斗が更に笑みを浮かべた。


「何、お前。他にもなんか心配されるようなことしてんのかよ」

「いや、だから何もねぇって」

「ふーん…で、この仕事はいつまんですんの?」

「来年3月で辞めようと思ってる。この前、社長にも言ったし」

「へぇー…、有名企業のブランドな。そこの社長にお前がなるってか?」

「ならねぇよ」

「あ、そーなん?」

「俺も自分から興したいって思ってるからそこに居座るかも分かんねぇし」

「でも、あそこの企業は他と格が違ぇもんな。お前はどんな知り合いが居んんだよ。普通じゃなかなかお声が掛かれねぇとこだろだしよ」


すげぇって、蓮斗は小さく呟きながらタバコの灰を灰皿に打ち付けた。

まだ美咲には言えない。

昔のホストの俺の事で上の空に入ってた美咲。

そしてお母さんの事。

そこにまた、この話で心配させるわけにもいかない。
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